活動報告

2023.12.05
◆ 第32回 研究会報告

2023年11月29日(水)18:00-20:00 Zoomによるオンラインでの開催
 
今回からピッツェッティが作曲した歌曲《ペトラルカの3つのソネット》に用いられたソネットを読んで行きますが、
まずは272番のソネット「La vita fugge」からスタートです。
 
1  La vita fugge, et non s’arresta una hora.
Et la morte vien dietro a gran giornate.
Et le cose presenti, et le passate
Mi danno guerra, et le future anchora.
5  E ‘l rimembrare et l’aspettar(e) m’accora,
Or quinci, or quindi, sì che ‘n veritate,
Se non ch’i’ ò di me stesso pietate,
I’ sarei già di questi pensieri fora.
Tornami avanti, s’alcun dolce mai
10 Ebbe ‘l core tristo. Et poi da l’altra parte
Veggio al mio navigar turbati i venti.
Veggio fortuna in porto, et stanco mai
Il mio nocchiere, et rotte Arbore et sarte,
E i lumi bei che mirar soglio spenti.
 
※ テキストはSavocaの批判校訂版2008による
 
まずはABBA ABBA CDE CDEという脚韻の幾何学的な美しさに魅せられます。
日本におけるペトラルカ研究の第一人者だった近藤恒一先生の試訳では以下のようになります。
 
  生は去りゆき、一刻(いっとき)もとどまらず。
しかも背後から死は大急ぎで迫りくる。
そして現在のこと過去のことが わが身を攻めたて
さらに未来のことまでが攻めたてる。
  かくて昔をしのび ゆく末(すえ)案じて心は悩む。
あれこれと思い悩んで そのためまことに
わが身に憐(あわ)れを覚えなかったら
この思い悩みとも絶縁して久しいはず。
  この悲しい心に いくらかでも甘美さ宿れば、
そして彼方(かなた) わが船旅(ふなたび)の行く手には 
風吹きすさぶをみれば、気を取りなおせ。
  はるかな港には嵐をみとめ、すでにわが舵取(かじと)りも
疲れはて、帆柱(ほばしら) 帆綱(ほづな)も吹き裂けて、
あこがれつづけた美しい明眸(あかり)も消える。
 
 
一般的な(会話のための)イタリア語を学ぶだけではなかなか手強い作品です。「語学=しゃべれる」の図式が浸透していますが、自分が何を・どこまでやりたいのかで
学び方や取り組み方はおのずと異なることが広く理解されることを切に願います。
さて、2行目の「a gran giornate」はラテン語の「magis itineribus」、イタリア語だと「a marce forzate」を意味することがわかればニュアンスがより掴めると思います(ちなみに、「すばらしい日々」ではありません)。3-4行目の主語「le cose presenti」「le (cose) passare」「le (cose) future」のうち、未来のことだけが「mi danno guerra」の後に絶妙に配置されています。
2連目は「’l rimenbrare(思い出すこと=過去)」と「l’apsoettare(待つこと=未来)」のいずれにおいても私の心は思い悩み、自らの命を断つところまでだった、と激しい表現で前半の8行を結びます。「fora」は動詞essereではなく「fuori」。自己憐憫に満ちた未来だけがそこに残った感じで伝わってきます。
9行目の「Tornami avanti」は「Mi torna alla mente」。後半の部分の最初の3行でのアンジャンブマンが詩句の流れを途切れさせずに繋いで行きます。10行目の「Et poi」で未来に視線が向けられ、クライマックスまで現在の絶望的な様子が描き出されます。
14行目のsoglioは従属動詞solereの直説法・現在・1人称単数の形ですが、全体の流れからみると半過去のニュアンスを含んでいますし、現在形の後ろ(「i lumi bei」から離れた位置)に「spenti」を配置することで、まさに人生という船旅の目指す明かりが今まさに消えるような感覚も得られるのではないでしょうか。
 
次回は「Levommi il pensier in parte ov’era」を扱う予定です(ピッツェッティでは3曲目ですが)。

森田学

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