活動報告

2023.06.01
◆ 第30回 研究会報告

2023年5月で丸3年の活動を終え、来月からは4年目のスタートとなります。
本日5月31日は記念すべき第30回目の研究会開催となりました。研究会メンバーの所属が青森から熊本までと日本各地に及んでいるため現在のZoomでの研究会であれば移動による体力的・経済的負担を強いられることなく参加できる点は非常に良いと思っています。
ただし、対面での積極的な空間を共にした研究会も機会があれば実現させたいと考えています。
 
いよいよペトラルカ『カンツォニエーレ』の読書会も軌道に乗ってきた感があります。今回からはリストが付曲した3つのソネット
・Pace non trovo(134番)
・Benedetto sia ‘l giorno(61番)
・I’ vidi terra(156番)
を読んで行きました。まずは「Pace non trovo」をソプラノ歌手の杉原さんが担当しました。現役の演奏家でもあり、テキストを専門的な観点できっちり読み込んだ朗読は、それを聴いているだけで詩句の世界が広がるような感覚を覚えました(対面だったらどれだけ素晴らしかったことか・・・)。
 
【Savocaのテキスト】
  Pace non trovo, et non ò da far guerra,
E temo, et spero, et ardo, et son un ghiaccio.
Et volo sopra ‘l cielo, et giaccio in terra.
Et nulla stringo, et tutto ‘l mondo abbraccio.
  Tal m’à in pregion, che non m’apre né serra.
Né per suo mi ritengo, né scioglie il laccio.
Et non m’ancide amore, et non mi sferra.
Né mi vuol vivo, né mi trae d’impaccio.
  Veggio senza occhi, et non ò lingua et grido.
Et bramo di perir, et chieggio aita.
Et ò in odio me stesso, et amo altrui.
  Pascomi di dolor, piangendo rido.
Egualmente mi spiace morte et vita.
In questo stato son donna per voi.
 
まずは5行目「Tal」が気になります。リストのロマンチックな音楽からは「かの恋人(=ラウラ)」である感覚が鮮明に現れますが、ここは「amore(Amore)」ではないでしょうか。つまり直訳すれば「愛(神)が私を牢獄に捕らえていて」、その牢獄から自由になるための鍵は「愛神」が持っているとなります。そして、私を殺すこともなく、私を縛りも解くこともせず、私が生きることを望まず、苦境から救い出すこともしない。畳みかけるように主人公の置かれている状況が語られて行きます。
この他にも「Veggio senza occhi(字義的には、目無くして私は見るの意)」とはどういうことなのか。何となく理解できるのでそのまま読み飛ばしてしまう箇所もしっかりニュアンスまで掴み取りたいものです。それにつづく部分の「non ò lingua et grido(字義的には、舌を持たずに叫ぶの意)」も同様の表現方法ですね。しっかりと見えていないけれど見ようとする、黙しながらも叫ぶという状況が自分のものとして表現できれば、その表現は演奏者本人の内から溢れ出る自然なものになるでしょう。
2行目の「son un ghiaccio 私は氷さながらで」といった意味になりますが、動詞essereを「〜である」だけでなく「〜になる」といった意味合いもあることが想像できると広がりを持った原詩の世界を堪能できるでしょう。ちなみにオペラ《フィガロの結婚》で登場人物のケルビーノが歌うアリア〈Non so più cosa son cosa faccio〉で「sono di ghiaccio」というセリフがありますが、こちらは自身が炎にも氷にも刻一刻と状態が変化するというこちらをお手本としているかのようです。
「volo sopra ‘l cielo 天高く翔ける」と「giaccio in terra 地上にひれ伏す」それぞれの私が、前者では「「nulla stringo 何も抱きしめず」、後者では「tutto ‘l mondo abbraccio 俗世をすべて抱きしめる」のだ。
音読や朗読の観点から見てみると、連続する接続詞「Et」のニュアンスをどれだけ出すのか・出さないのか、そこでフレーズの進むスピードや間の取り方にどのような差が生まれるのか。『カンツォニエーレ』の唯一の例となるシチリア派の押韻(altruiとvoi:母音uと閉口音のo)の響きの扱いもじっくり考えて行きたいポイントです。
次回はBenedetto sia ‘l giornoを読んで行きます。

森田学

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