詩句のイタリア語
イタリア語のオペラや歌曲の歌詞はほぼ韻文で書かれています。響きやリズムによって生み出されたことばの世界では、ことばの意味を理解する(日本語に訳せる)だけでは十分とは言えません。なぜそのような語順になっているのか、その表現や単語、形式をなぜ選んだのか、などについても考えてみたいものです。対訳を読んでみたけれどうまく理解できない場合、その理解を深めるための手がかりも紹介していければと考えています。
2020.06.13
Caro mio ben 愛しいひとよ
声楽を勉強する人が必ずと言ってよいほど歌う〈Caro mio ben 愛しいひとよ〉という曲があります。
- Caro mio ben,
- 愛しいひとよ、
- credimi almen,
- 少なくとも分かってほしい、
- senza di te
- あなたなしでは
- languisce il cor.
- 私の心はしぼんでしまう。
- Il tuo fedel
- あなたのことを一途に思う男は
- sospira ognor.
- いつもため息をついています。
- Cessa, crudel,
- ひどい、やめてください
- tanto rigor!
- そんなにもつれない(態度をとる)のを。
歌の歌詞ではアクセントのある音節で単語を終えるために語末の母音を落とすことが少なくありません(トロンカメント)。これは多くの場合、作曲する上で和音終止と言葉の終わりを一致させるために行なわれるのですが、この曲では「あなたの te」以外の行末単語すべてにおいてトロンカメントが起こります。主人公のせつない思いを表しているようでもありますし、強調された脚韻が「愛しいひとよ」「少なくとも」「私の心(気持ち)は」「いつも」「一途」、「ひどい」「つれなさ」とこだましているようにも聞こえてきます。
森田学