活動報告

2020.09.13
◆ 第4回 研究会の開催

Librettistica italianaの9月研究会を12日(土)10:00-12:00にZoomで行いました。

 

新しい参加者を迎え、回を重ねるたびに活発さを増している当研究会。今日は『ドン・パスクワーレ』(G. ドニゼッティ)の第1幕第3場から始まりました。

 

2時間に及ぶ研究会の一部で、オペラ作品を研究していくうえでのポイントが共有される場面がありましたため、私なりの整理の上、書き留めておきたいと思います。

 

「オペラ作品を勉強しよう!」と思い台本と向き合っていく際には、まずは作曲される前に完成していたオリジナルの台本(①)、作曲されたことによって作曲時の都合が反映された台本(②)の大きく2種類が考えられます。私たち演奏家が、楽譜を通して慣れ親しんでいる台本は②ですが、往々にして①から②にかけての変更点にはドラマがあり、そのドラマには、台本作家と作曲家のこだわりが凝縮されていることが多いです。つまりは、その作品に託された世界や質感を深く捉えていくための重要なヒントが隠されているわけです。(今回取り上げている『ドン・パスクワーレ』も例にもれず、①から②にかけてのドラマがありました。)そう思うと、少なくとも①と②を混同することは避け、分けて考えること。さらにその相違点の整理から、多様な資料を参考し、読み取りを行っていくことが大切になります。

 

使用されている言葉に着目して台本を読み解いていこうとする場合にも、いくつかの整理された視点が要求されます。例えば、”stupore”と”sorpresa”という、日本語の辞書では共に「驚き」と訳される単語を見ていくときにも、そのニュアンスの違いを実感として捉えられているかによって、読みの深度が変わってきますし、さらに言えば、それらの単語が現代イタリア語とのニュアンスの違いを含んでいる場合、当時の文献等での使用例を参照しながら客観的に単語そのものの示すテリトリーと向き合う必要性も出てきます。(時代をさかのぼることで、多かれ少なかれ全ての単語に質感の違いはあると思われますが。)

 

さらに、単語と単語がつながり、詩行を形成したときには、一気に複雑さが増すことでしょう。そこではリズムが生まれ、リズムは意味を発生させます。リズムを読み解く際には様式(伝統)への理解も必要になってきます。

 

異なる視点として、台本の言葉たちが作曲された際にどのような扱われ方をしているのか、という音楽の状態も総合した検討も欠かせないことと思います。その際には、作曲者が台本をどのように読み解き、音を付したのか、という作曲者の存在が無視できないこととなり、そうなると今度は、作曲家の作曲の癖や音と言葉の組み合わせによって期待される効果への認識、そして当時の流行(文学や絵画も含む)といった時代の特性等へも視野を拡げることになると思います。

 

以上、あえて様々な視点を列挙しましたが、これら1つ1つと落ち着いて向き合い、総合して概観し、そのうえでさらに、何が事実として得られた結果なのか、何が解釈としての可能性なのかを整理することで、ようやく「では、私はどう演奏するのか」という段階へ話が進んでいくのだと感じています。(自分で自分の首を絞めることになるのであまり書きたくないですが、演奏家の研究成果とは、演奏そのものであると思うので、これらの一貫したプロセスの深みが揺るぎない演奏へと繋がっていくと思います。)

 

単語1つにしても、「縦軸」(時代によるニュアンスの違い)と「横軸」(類語とのニュアンスの違い等)があるように、それぞれの視点において、今はこの両軸のどこを見ようとしているのか、その意識が探究を助けてくれることもあるかもしれません。

 

次回はどんな会になることか、今から楽しみでなりません。

小田直弥

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